熱もなく、食欲も落ちていない。仕事にも普段どおり行けている。それなのに、便がゆるい状態だけが終わらない。こうしたときは、次に何をすればよいのかが決めにくいものです。体調そのものは崩れていないぶん、医療機関にかかるほどのことなのかどうかの線が引けません。この記事は、下痢が続く状態について学会や公的機関の資料がどこまで述べているのかを整理し、様子を見るか相談するかの判断がどこで分かれるのかをまとめたものです。
どこまで様子を見てよいかは、続いた日数だけでは決まりません。学会のガイドラインにある「4週間」という数字は、慢性下痢症という状態を区分するために引かれた線であり、受診の目安として示されたものではないためです。
一次情報が受診を考える材料として挙げているのは、期間ではなく症状のほうです。ただしその症状の一覧にも「有用性は明らかでない」という限定が付いています。当てはまるかどうかで白黒が決まる種類のものではありません。
だからこそ、判断に迷った時点で相談してよいというのが、この記事の結論になります。相談先の考え方は記事の前半で整理しています。
まず確かめたいのは、いま続いている状態が医学的に何と呼ばれるものなのか、という点です。
目次
元気なのに下痢が続く大人にも当てはまる下痢の定義

「下痢」という言葉は日常でも使いますが、医学的な定義は日常の使い方より少し狭く決められています。便がやわらかいだけ、あるいは回数が増えただけでは呼び方が変わります。体調が悪くないまま便の状態だけが続いている場合も、当てはめる定義は同じです。
下痢と呼べるのは便がゆるくなり排便回数も増えた状態
日本消化管学会が編集した「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症」では、下痢は便の形が軟便あるいは水様便になり、かつ排便回数が増える状態と定義されています。ここで見落とされやすいのが「かつ」という一語です。便の形の変化と回数の増加は、どちらか一方ではなく両方がそろって初めて下痢と呼ばれます。同じガイドラインは、排便回数の増加のみでは下痢とは表現しないとも書き添えています。
便の形は、ブリストル便形状スケール(BSFS)という7段階の分類で示されます。下痢に当たるのは、このうちタイプ6の軟便とタイプ7の水様便です。「ゆるい」と一言でいっても、形が崩れかけている段階から水のような状態までの幅があり、そのどちらもこの2つのタイプに含まれます。
| 下痢と呼ぶために必要な要件 | 内容 |
|---|---|
| 便の形 | 軟便あるいは水様便になっている(ブリストル便形状スケールのタイプ6または7) |
| 排便の回数 | 排便回数が増えている |
回数だけが増えている場合や、形は崩れていても回数がいつもと変わらない場合は、この定義には当てはまりません。ただし、この定義に当てはまらないからといって、確かめる必要がないわけではありません。呼び名が違えば、当てはめる基準も変わります。なお、便の形や回数から自分の病名を決めることはできません。同じ形の便が出ていても、そこに至る理由は複数あります。

腹痛なしで下痢が続くときも定義は変わらない
痛みがないと、それだけで軽い状態のように思えるかもしれません。ただ、慢性下痢症の診断基準には腹痛の項目がありません。同じガイドラインが示している診断基準は、便の形がブリストル便形状スケールのタイプ6または7であることと、その状態が4週間以上持続または反復していることの2点を軸にしています。そこに腹痛の項目はなく、腹痛の有無は問われていません。痛みがないことは、定義から外れる理由にならないということです。
これは裏返せば、痛みがあるかどうかを自分で下痢の重さの目盛りに使えない、ということでもあります。痛みがあるほうが重い、痛みがないから軽い、という対応関係を示した資料は見当たりません。同じように、体調が良いことも悪いことも、下痢の重さを測る目盛りにはなりません。「元気だから確かめなくてよい」とも「元気なほうがかえって心配だ」とも、一次情報からは言えないためです。元気さは判断材料の外にある、と考えるほうが実際に近くなります。
腹痛は、下痢に伴って出ることも、出ないこともあります。ガイドラインが分類の中に置いている下痢型過敏性腸症候群のように、腹痛や腹部の不快感を伴う病態も含まれてはいますが、それは分類のひとつであって、下痢そのものの定義ではありません。腹痛がないまま下痢だけが続いている状態も、定義の上ではそのまま下痢として扱われます。
痛みがないまま続いている場合に受診を考えてよいのかどうかは、定義とは別の問いになります。こちらは記事の後半のよくある質問で取り上げています。
下痢が続く期間が4週間以上とされる慢性下痢症の基準

前の章の定義に当てはまる状態が、どのくらい続いたときに別の呼び方に変わるのか。ここで出てくるのが4週間という数字です。ただし、この章で扱うのは病態の区分であって、受診の目安ではありません。数字が独り歩きしやすい部分なので、何を線引きするための数字なのかを先に確かめておきます。
下痢が続く状態を4週間以上で慢性下痢症と呼ぶ理由
便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症は、慢性下痢症を4週間以上持続または反復する下痢のために、日常生活にさまざまな支障をきたした病態と定義しています。この一文には3つの要素が入っており、期間だけで呼び名が決まる書き方にはなっていません。
| 定義に含まれる要素 | 原文での書かれ方 |
|---|---|
| 期間 | 4週間以上 |
| 続き方 | 持続または反復 |
| 生活への影響 | 日常生活にさまざまな支障をきたした病態 |
「持続または反復」という書き方には、治まったり出たりを繰り返す経過も含まれます。ずっと途切れずに続いていなければ当てはまらない、というものではありません。一方で、4週間という日数を過ぎれば全員がこの区分に入るわけでもなく、日常生活への支障という要件が並んで置かれています。
なぜ4週間なのかについても、同じガイドラインが理由を書いています。急性の下痢の原因として多い腸管感染症は、通常1週間、長くても4週間で改善することから、慢性の期間が4週間以上と定められました。つまり4週間という線は、感染性の急性下痢症の可能性を切り分けるために引かれたものです。ここから言えるのは「感染症ではない可能性が出てくる」というところまでで、4週間を過ぎたから感染症ではない、と決まるわけではありません。
なお、この定義には推奨の強さとして「―(推奨なし)」、エビデンスレベルとしてBが付いています。定義そのものを述べた項目であるため、推奨のレベルが設定されていないという形です。学会がこの期間を強く推奨している、という書き方はできません。
参考:日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症」
下痢が続くのが1週間ほどでは慢性下痢症の区分に入らない
実際に検索されている言葉を見ると、多くの方が不安を覚えはじめるのは1週間前後です。ところが学会が線を引いているのは4週間で、両者には開きがあります。この開きは、同じ「期間」という言葉で別のものを指しているために生まれます。
| 1週間 | 4週間 | |
|---|---|---|
| 何を指す数字か | 急性の下痢の原因として多い腸管感染症が通常改善するまでの期間 | 慢性下痢症という病態の区分の境界 |
| どこに書かれているか | ガイドラインの解説 | ガイドラインの定義 |
| 受診の目安として示されたものか | いいえ | いいえ |
1週間で治まらないことに意味がないのではなく、1週間という数字が受診の線として示されたことがない、というのが実際のところです。同じように、4週間も受診の線ではありません。つまり、どちらの数字を持ってきても「様子を見てよい期間」は出てきません。
手帳やスマートフォンで日数を数えている方にとっては、その日数こそが判断材料に思えます。ただ、その数字と学会の4週間は目的が違うため、そのまま重ねることができません。日数を数えること自体は診察のときに役立つ情報になりますが、日数から受診するかどうかの答えを出すことはできないという点は変えられません。
では何を材料にするのか。それが次の章と、その次の章で扱う内容です。1週間で治まらないときの考え方は、直後の項目と合わせて読むと分かりやすくなります。
下痢が続くのが4週間以上でも慢性下痢症と呼ぶには器質的疾患の除外が前提
4週間以上続いていれば自動的に慢性下痢症になるのか、というと、そこにも段があります。同じガイドラインの診断基準の表には、器質的疾患など他の原因によるものが除外され、排便の25%以上が軟便あるいは水様便である場合を「狭義」の慢性下痢症とするという項目が置かれています。この「狭義」という限定は、除外という手続きを経た後にしか付きません。
除外というのは、腸そのものに炎症や腫瘍などの変化がないかどうかを、診察と検査で順番に確かめていく作業のことです。この作業は医療機関で行われるもので、手元の記録だけで済ませられるものではありません。期間と便の形が分かっていても、そこから先は自分では詰められないということになります。
一方で、期間と日常生活への支障だけで述べられている広い意味での定義もあります。「4週間以上」の定義と、除外を前提にした「狭義」の定義は、同じ言葉で呼ばれていても射程が違います。読み比べるときに混ざりやすいところなので、除外が前提になっているのは狭義のほうだと分けて読むと、資料の間の食い違いに見えるものが整理できます。

元気なのに下痢が続く大人が自然に軽快する経過と慢性下痢症の違い
続いている状態と、そのうち治まる状態とでは、どこが違うのか。手がかりになるのが、日本感染症学会と日本化学療法学会がまとめた「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―」の記述です。健康な成人のウイルス性腸炎は、治療介入が不要な経過をたどり、軽症かつ短期間で自然に軽快することが多いとされています。健康な成人では対症療法のみを行う、という書き方です。
ここで落とせないのが「健康な成人」という限定です。同じガイドラインは、高齢者や免疫不全のある方のウイルス性腸炎は、健康な成人に比べて重症化し、症状が遷延するとも述べています。自然に軽快するという記述は、この対比まで含めて初めて原文どおりになります。
そして、この記述が指しているのはウイルス性腸炎という原因がはっきりした場合の経過です。下痢が続いている大人の全員が自然に軽快する、という意味ではありません。逆に、4週間以上続いているからといって、それだけで別の原因だと決まるわけでもありません。言えるのは、短期間で自然に軽快するという記述をそのまま当てはめられる状態ではない、というところまでです。何がその状態を作っているのかは、診察と検査で確かめていくことになります。
だとすると、次に決めたいのは「では何を材料に判断するのか」です。答えの入口は、まずどこへ相談するかという窓口の話であり、そこから症状で考える話へ進みます。順に見ていきます。
下痢が続くときは何科?大人がまず相談できる窓口

期間では決まらないとすると、残るのは相談してみるという選択です。ところが、ここでもう一段迷いが生まれます。何科に行けばよいのかが分かりにくいためです。この章では窓口の話だけを扱います。どういう症状のときに受診を考えるのかは、次の章にまとめています。
下痢が続く大人がまず内科を相談先にしやすい理由
「下痢が続いたら何科へ」という問いに、学会や行政の資料が正面から答えている記述は見当たりません。近い記述として挙げられるのが、国立がん研究センターのがん情報サービスです。大腸がんの症状として頻度が高い血便などに触れたうえで、これらの症状は痔などの良性の病気でも起こりますが、自己判断せず、症状に気が付いたら早めに消化器科、胃腸科、肛門科などの身近な医療機関を受診しましょうと案内しています。ただしこれは大腸がんの症状に気づいたときの文脈であり、下痢が続くとき一般の受診先として引ける記述ではありません。
そのうえで押さえておけるのは、便通異常症診療ガイドラインが「対象とする主な利用者は一般臨床医」と明記していることです。慢性下痢症は専門の施設でしか扱えない領域として整理されているわけではなく、日常の診療の中で診られる領域として想定されています。
池袋かめさん内科の内科診療でも、対応する症状として腹痛・下痢・便秘・吐き気が挙げられています。当院の内科診療は、予約なしでもご受診いただけます。ただし、発熱のある方や解熱剤を服用した方、新型コロナウイルスの自己検査で陽性となった方は、院内感染対策のため、事前に発熱外来をご予約のうえご来院いただく形になります。
参考:国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」
下痢が続く大人が内科のなかで消化器内科を選ぶ目安
内科と消化器内科は並んだ選択肢ではなく、消化器内科は内科の中の領域のひとつです。したがって「どちらへ行くか」を先に決めなくても差し支えありません。内科で診察を受けた結果、消化器の領域の検査が必要だと判断されれば、そこから先へつながります。

| 迷っている点 | 考え方 |
|---|---|
| どこへ相談すればよいか決めきれない | 内科は下痢を含む腹部の症状を受け付ける窓口として案内されている |
| 内視鏡検査まで見据えて相談したい | 消化器内科の領域を併せて扱う内科であれば、診察から検査までを同じ場所で相談できる |
| 相談してよい状態なのか判断できない | 判断そのものを相談してよい。受診の可否を自分で決める必要はない |
池袋かめさん内科でも、一般的な内科診療に加えて、消化器内科の領域である胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)・大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査)などの内視鏡検査を行っています。診察の結果に応じて、院内で対応できる検査をご案内する形です。
迷った時点で相談してよい、というのがこの章の答えです。相談してよいかどうかの線を自分で引く必要はなく、その線引きこそが診察で行われることだからです。
下痢が続いているものの、受診するほどのことなのか判断がつかないという状態でも、そのまま内科で相談していただけます。池袋かめさん内科の内科診療は予約なしでも当日ご受診いただけます。ただし発熱のある方や解熱剤を服用した方、新型コロナウイルスの自己検査で陽性となった方は、事前に発熱外来のご予約が必要です。ご予約やご相談は電話(03-3986-4466)・WEB・LINEで受け付けております。雑司が谷駅2番出口から徒歩2分、目白駅から徒歩10分の場所にあります。
下痢が続く大人が受診を考えるときの警告症状とその限界

窓口が決まったところで、次に決めたいのは何を材料に考えるかです。この記事の問いである「どこまで様子を見てよいか」に対する答えは、この章にあります。結論から書くと、判断の材料は期間ではなく症状です。ただし、その症状の一覧には最初から限界が書き添えられています。
下痢が続く大人の警告症状として日本消化管学会が挙げる7項目
便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症は、慢性下痢症の警告症状・徴候として次の7つを挙げています。
- 予期せぬ体重減少
- 夜間の下痢
- 最近の抗菌薬の服用
- 血便
- 大量・頻回の下痢
- 低栄養状態
- 炎症性腸疾患や大腸癌などの家族歴
この7つがすべてです。推測で発熱や腹痛を足すことはできませんし、逆に減らすこともできません。同じガイドラインは、一般的に、このような警告症状・徴候がみられれば、さらに検査を進める必要があるとも述べており、受診や検査へつながる道筋はこの一文に基づいています。
順番にも重みにも意味はありません。どれが重いか、いくつ当てはまったらどうなるか、といった数え方を示した資料はありません。項目ごとの精度も示されていないため、点数を付ける読み方は成り立ちません。血便についても、ここでは7項目のうちの1つとして挙げるにとどめます。
下痢が続くときの警告症状は有用性が明らかでないとされている
7項目を挙げた同じ推奨文には、続けて「しかしながら、その有用性は明らかでない」と書かれています。項目の一覧を示したうえで、その一覧の使い勝手そのものに留保が付いている形です。推奨の強さは「―(推奨なし)」、エビデンスレベルはCとされています。
ここでいう有用性とは、器質的疾患を拾い上げる手がかりとしての有用性を指します。腸そのものに炎症や腫瘍などの変化がある状態を、この7項目で見つけられるかどうか、という意味です。その点について明らかでないと書かれているため、7項目は判定の道具ではなく、診察のときに医師へ伝える材料として扱うのが原文に沿った使い方になります。
一覧だけを切り出して読むと、当てはまれば器質的疾患があるように見えるかもしれません。ただ、一覧を示した当の資料が同じ場所で限界を明記している以上、その限界を外して受け取ることはできません。

下痢が続く大人に7項目が当てはまっても器質的疾患が見つかるとは限らない
同じガイドラインの解説には、警告症状・徴候が陽性の場合でも、器質的疾患が認められる可能性は10%未満という記述があります。当てはまったからといって、腸に何かが見つかると決まるわけではありません。
ただし、この10%未満という数字は器質的疾患の全体についての数字であって、大腸がんの確率ではありません。がんの確率として読み替えることはできません。そして「10%未満だから受診しなくてよい」という向きにも読めません。同じ解説は、警告症状がみられれば検査を進める必要があると述べているためです。
限界には、もう一方の向きもあります。同じ解説は、警告症状・徴候だけで器質的疾患を除外したり確定したりすることは難しいとしています。つまり、7項目のどれにも当てはまらないからといって、器質的疾患がないと確かめられたことにはなりません。
| 7項目に当てはまる場合 | 7項目に当てはまらない場合 |
|---|---|
| 器質的疾患が認められる可能性は10%未満とされ、当てはまることだけで何かが確定するわけではない | 当てはまらないことで器質的疾患を除外できるわけではない |
| ただし検査を進める必要があるとされており、確かめない理由にはならない | ただし何もない証明にはならないため、様子見の根拠にはならない |
この2つを並べると、7項目は当てはまっても当てはまらなくても、それだけでは結論にならないことが分かります。だとすれば、答えは「期間で決める」でも「項目の数で決める」でもなく、判断そのものを診察に持ち込むという形になります。迷っているなら相談してよいという結論は、ここから出てきます。
参考:日本消化管学会「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症」本文
7項目の使い方
7項目は、当てはまるかどうかで受診を決めるチェックリストではありません。当てはまるものがあれば、その内容をそのまま診察で伝えるという使い方になります。
当てはまるものがないときも、続いていること自体は伝える価値のある情報です。除外の根拠にはならないと原典が書いているためです。
下痢が続く原因は?大人で考えられる8つの分類

判断の材料が症状だとして、その背景に何があるのかも気になるところです。便通異常症診療ガイドラインは、慢性下痢症を原因によって8つに分類しています。ただしこの章の最初の項目は、8分類とは別の軸から始まります。8分類に入る前に、急性か慢性かで見え方が変わるためです。
| 分類 | どのような原因を指すか |
|---|---|
| 薬剤性 | 服用している薬が誘引になっている場合 |
| 食物起因性 | 食事の内容が関与している場合 |
| 症候性(全身疾患性) | 全身の病気に伴って起こる場合 |
| 感染性 | 病原体の感染によるもの |
| 器質性 | 腸そのものに炎症や腫瘍などの変化がある場合 |
| 胆汁酸性 | 胆汁酸の動きが関係する場合 |
| 機能性 | 検査で異常が見つからない場合 |
| 下痢型過敏性腸症候群 | 腹痛や腹部の不快感を伴う機能性の病態 |
この8つの並び順は、多い順ではありません。ガイドライン自身が、慢性下痢症(狭義)の原因となる病態については報告がほとんどなく明らかになっていないと述べており、順位を付けられるだけのデータがそもそも存在しません。上から順に疑うものでも、①から起こりやすさの順に並んでいるわけでもない、という前提で読む一覧です。
なお同じガイドラインは、日本人の慢性下痢症(狭義)の有病率は、およそ3〜5%程度、男性に多い傾向があると推定されるとしています。ここでいう対象は器質的疾患などが除外された狭義の集団であり、しかも「推定される」という留保が付いた数字です。年齢との関係については、一定した関係性は確立されていないと明記した箇所もあります。
下痢が続く原因は急性と慢性で分けて考える
厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 重度の下痢」は、原因の傾向を急性と慢性で分けて説明しています。急性下痢症の90%以上は感染症が原因とされています。一方、慢性下痢症については、原因のほとんどが非感染性で、薬が誘引になっている場合もあると説明されています。
| 急性の下痢 | 慢性の下痢 | |
|---|---|---|
| 原因の傾向 | 90%以上が感染症 | ほとんどが非感染性 |
| 薬との関係 | ー | 薬が誘引になっている場合がある |
この2区分の傾向は、8分類の中の順位づけとは別の話です。慢性側で非感染性が「ほとんど」とされていても「すべて」ではなく、8分類には感染性も残されています。続いているから感染症ではない、と決めることはできません。
急性側の背景資料としては、厚生労働省の食中毒統計調査があります。令和7年(2025年)の食中毒は事件数1,172件、患者数24,727人という数字です。これは急性の下痢の背景を示すもので、4週間以上続いている状態の説明に使える統計ではありません。
参考:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 重度の下痢」
服用中の薬を医師に伝えると下痢が続く原因の絞り込みに役立つ
薬は8分類の1つに挙げられており、しかも幅が広い項目です。便通異常症診療ガイドラインは、約700以上の薬剤が下痢と関与しており、有害事象の約7%に相当するとしたうえで、慢性下痢症の診断において薬剤性下痢症を鑑別することは重要と述べています。なお、この約7%は有害事象のうち下痢が占める割合であり、薬を飲む方の7%に下痢が起こるという意味ではありません。
時期についても、知っておくと役立つ記述があります。厚生労働省のマニュアルは、薬による下痢は一般に薬を使用し始めて1〜2週間以内に起こることが多いとしたうえで、薬の種類や体調によって、服用後1〜2か月経過してから下痢が起こる場合もあると書いています。
この後半の記述は、下痢が続いている状態を考えるうえで重要になります。最近始めた薬でなければ関係ない、とは言い切れないためです。以前から続けている薬についても、診察のときには同じように伝える対象になります。
一方で、思い当たる薬を自分で見つけ出す作業は、この章の目的ではありません。原因になりうる薬の種類は幅広く、しかも重い下痢を扱う資料に挙げられているものが中心です。自分の判断で薬をやめることは、別のリスクを生みます。ここでできるのは、飲んでいる薬をそのまま医師に伝えるところまでです。伝えると役立つ内容の整理の仕方は、診察と検査の章で改めてまとめています。
下痢が続く原因を自分で決めないほうがよい理由
8分類は原因の地図であって、症状から自分の分類を当てるための道具ではありません。同じ形の便が続いていても、その背景は分類のどこにでもありえます。国立がん研究センターも、症状に気づいたときは自己判断せず医療機関を受診するよう案内しています。
自分で決めにくい理由は、データの側にもあります。ガイドラインは、慢性下痢症(狭義)の原因となる病態については、報告がほとんどなく明らかになっていないと明記しています。専門家の側でも順位づけができていない領域を、手元の情報だけで詰めることはできません。
ストレスとの関係を気にされる方も多いところです。8分類でいえば機能性や下痢型過敏性腸症候群が近い位置にありますが、分類名として挙がることと、原因がそれだと決まることは別です。過敏性腸症候群については、日本消化器病学会が「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」を別に公開しており、診断や治療はそちらで整理されています。この記事で扱うのは、8分類の中に置かれている名前としてのところまでです。
参考:日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2020―過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)」
下痢が続くときに医療機関で行われる診察と検査

原因を自分で決められないとすると、実際の医療機関では何をするのか。この章で扱うのは大腸カメラ以外の検査です。大腸カメラについては、どこまで切り分けられるのかを含めて次の章にまとめています。大腸カメラを受けるまでの流れの説明も、次の章に置いています。
下痢が続く大人の診療は問診と身体診察から始まる
便通異常症診療ガイドラインは、慢性下痢症の診断でまずはじめに重要となるのは問診と身体診察であるとしています。この項目には推奨の強さ「強」、合意率90%、エビデンスレベルAが付いており、ガイドラインの中でも根拠の水準が高い部類に入ります。検査機器から始まるのではなく、話を聞いて体を診るところから始まる、という順序です。
問診で聴取する内容も、解説に列挙されています。挙げられているのは次の項目です。
- 警告症状・徴候の有無
- 抗菌薬や糖尿病治療薬や胃酸分泌抑制薬などの服薬歴
- 糖尿病や甲状腺機能亢進症などの併存疾患
- 手術や放射線治療などの既往歴
- 食生活や飲酒歴
- 炎症性腸疾患やがんの家族歴
- 海外渡航歴
これは診断名を当てるための質問表ではなく、可能性の幅を絞っていくための材料集めです。

下痢が続くときに医師が個別に判断して選ぶ検査
同じ推奨文は、問診と身体診察のうえで、血液検査・糞便検査・画像検査などから、必要となる検査を個別に判断して実施するとしています。決まった検査の組み合わせがあらかじめ用意されているわけではなく、何を行うかは診察の内容によって変わります。
| 検査の種類 | 何を確かめるものか |
|---|---|
| 血液検査 | 全身の状態や、炎症・栄養状態などの手がかりを見る |
| 糞便検査 | 便そのものを調べ、感染や腸の状態の手がかりを見る |
| 画像検査 | 腹部の様子を画像で確かめる |
検査の名前を並べると不安が増えることがありますが、列挙されているものがすべて行われるという意味ではありません。どれを行うかを決めるのは医師です。
便の炎症の指標として名前が挙がる便中カルプロテクチンについても、同じガイドラインは本邦では慢性下痢症に対する保険適用はないと明記しています。適用の範囲まで含めて確かめないと、受けられる検査の見取り図がずれます。
下痢が続くのに血液検査で異常なしといわれることがある理由
検査を受けたのに異常なしと言われた、という経験を持つ方もいます。これは検査が無駄だったという意味ではありません。慢性下痢症の診断は、器質的疾患など他の原因によるものを除外していく手続きを含んでいるためです。異常が見つからなかったという結果は、その除外の一部が進んだことを示しています。
では、異常が出なかったあとは何を見るのか。ガイドラインが示す診断基準は、期間と便の形と生活への支障、そして除外という手続きを組み合わせたものです。血液で確かめられるのはそのうちの一部にとどまるため、1つの検査結果だけで完結する形にはなっていません。
ここから先、どの検査までを行うかは診察の判断によります。血液検査で異常が出なかったことを、確かめる作業を止める理由に読み替えないほうが実際的です。なお、除外の先にある個々の病態の診断基準や治療については、それぞれ別のガイドラインで整理されています。
下痢が続く人が受診前にまとめておく内容
診察は問診から始まるため、手元の情報がそろっているほど話が早く進みます。厚生労働省のマニュアルも、受診の際に医師へ知らせる内容として、使用中の薬の種類と量、使い始めてからの期間、症状の種類や程度と持続期間を挙げています。まとめておくとよい内容は次のとおりです。
- 症状の種類と程度
- 症状が続いている期間
- 使用中の薬の種類と量
- 使い始めてからの期間
- 海外渡航歴
- 家族歴
症状の種類と程度から書き出しておくと、話の順序が診察の流れに沿います。日数を数えていた方は、その記録がそのまま2つ目の項目になります。薬は、名前と量と飲み始めた時期を一覧の形にしておくと、そのまま渡せます。お薬手帳があれば、持参するだけで足ります。
下痢が続く原因を大腸カメラ(大腸内視鏡検査)で切り分けられる範囲

前の章で扱ったのは大腸カメラ以外の検査でした。ここからは大腸カメラ(大腸内視鏡検査)の話に入ります。どこまで切り分けられる検査なのか、そして誰に対して推奨されているのかは、資料の中で明確に書き分けられています。
下痢が続く状態のうち慢性下痢症に大腸カメラが強く推奨される根拠
この推奨の出典は、日本消化管学会が編集した「便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症」のCQ2-3です。日本消化器病学会ではありません。原文は、慢性下痢症に対する大腸内視鏡検査は、器質的疾患との鑑別診断・除外診断において有用であるため推奨するというもので、推奨の強さ「強」、合意率100%、エビデンスレベルAが付いています。
押さえておきたいのは主語と目的語です。主語は「慢性下痢症」であって、下痢が続いている方の全員ではありません。そして目的語は「器質的疾患との鑑別診断・除外診断」であり、下痢を治すための検査として推奨されているわけでもありません。腸そのものに変化があるかどうかを切り分けるための検査、という位置づけになります。

対象についても、解説に限定が書かれています。施行が推奨される対象として挙げられているのは、次の3つです。
- 経験的な治療を行っても改善しない例(原文では empiric therapy 抵抗例)
- 警告徴候を有する患者
- 50歳以上
この限定を外すと、推奨の範囲が実際より広く伝わります。
下痢が続く大人全員に大腸カメラがすすめられるわけではない
大腸内視鏡検査については、別の学会も適応を示しています。日本消化器内視鏡学会の「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」は、診断検査としての全大腸内視鏡検査の適応を示しています。挙げられているのは、便潜血検査陽性・血便・便通異常・貧血・腹痛・体重減少や腹部腫瘤などで大腸がんを疑う患者、あるいは大腸がん以外の炎症性疾患や機能性疾患を疑う場合です。
この一覧に含まれるのは「便通異常」という語であり、「下痢」ではありません。便通異常には便秘も含まれる広い言葉で、下痢に置き換えると原文を超えます。また、列挙された項目は「などで大腸がんを疑う患者」に係っており、項目を1つ切り出して適応が決まる書き方にもなっていません。こちらの推奨の強さは2(弱)、エビデンスレベルはBです。
| 日本消化管学会 便通異常症診療ガイドライン2023 CQ2-3 | 日本消化器内視鏡学会 大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン | |
|---|---|---|
| 対象 | 慢性下痢症 | 診断検査としての全大腸内視鏡検査の適応 |
| 記述の内容 | 器質的疾患との鑑別診断・除外診断において有用であるため推奨する | 適応の一覧に「便通異常」が含まれる |
| 推奨の強さ | 強(合意率100%) | 2(弱) |
| エビデンスレベル | A | B |
この2つは別の学会の別の設問です。片方の「強」ともう片方の適応の一覧を足し合わせて、下痢があれば強く推奨される、と読むことはできません。同じ便通異常症診療ガイドラインの中でも、ランダム生検についての推奨は「弱(合意率77%)」でエビデンスレベルBの別のステートメントとして置かれており、大腸内視鏡検査そのものの推奨とは分けて書かれています。推奨の強さは、どの設問に対する答えなのかとセットでしか意味を持ちません。
参考:日本消化器内視鏡学会「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」
参考:Minds ガイドラインライブラリ「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」
下痢が続くときに大腸カメラを受けるまでの流れと準備
受けると決まった場合でも、当日いきなり検査になるわけではありません。池袋かめさん内科の大腸カメラは毎週金曜日の午後に予約制で実施しており、受診当日に大腸カメラ検査を受けていただくことはできません。事前に一度ご来院いただく必要があります。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| まず内科を受診する | 問診と身体診察から始まり、検査が必要かどうかを含めて相談する |
| 事前の診察を受ける | 検査の前に一度来院し、当日までの準備について説明を受ける |
| 検査を受ける | 腸管洗浄剤は自宅で服用いただき、予約した日時に来院する |
腸管洗浄剤は自宅で服用していただく形で、院内で服用する運用ではありません。鎮静剤についてはご希望の患者様に対して用いており、全員に使うものではありません。
検査の前に一度診察を挟むのは、受けるかどうかの判断と、当日までの準備の説明がそこで行われるためです。池袋かめさん内科の大腸カメラのページでも、便通に異常がある方(便秘・下痢・便秘と下痢を繰り返すなど)が対象として案内されています。
なお、大腸がんが疑われた場合の検査については、国立がん研究センターが直腸指診や注腸造影検査、大腸内視鏡検査を行い、がんかどうかを確定するとしています。そのうえで、検査を行う順番は症状によって異なりますとも書き添えています。決まった順路が全員に当てはまるわけではない、ということです。
大腸カメラについて押さえておく点
推奨されているのは器質的疾患との鑑別診断・除外診断のためであり、下痢そのものを治すための検査ではありません。
推奨の対象も慢性下痢症であって、下痢が続いている方の全員ではありません。受けるかどうかは診察を経て医師が判断します。
下痢が続くとどうなる?そのままにしたときに起こること

そのままにした場合に何が起こるのか、という問いに一次情報が挙げているのは、まず脱水への注意です。この章では、脱水と、大腸がんとの関係についての考え方を扱います。前の章が「検査で何が分かるか」だったのに対し、ここでは何もしないまま時間が経った場合の話になります。
下痢が続くときに脱水への注意がすすめられる理由
厚生労働省のマニュアルは、下痢が続く場合に体から水分が失われることへの注意を促しています。口の渇きや尿量の減少は、体の水分が不足していることを示す手がかりとして挙げられているものです。下痢が続くときは、体から失われる水分と電解質にも注意が必要だ、という位置づけです。
水分をとってもすぐに出てしまう、食事の量が落ちているといった状態が重なると、失われる量に補う量が追いつかなくなります。脱水かどうかを自分で判定することはできませんが、口の渇きや尿の量の変化は、診察でそのまま伝えられる具体的な情報になります。

水分が摂れているかどうかは、自分で確かめられる数少ない目安のひとつです。ただし、水分がとれているからといって受診の要否が決まるわけではありません。目安として使えるのは体の状態の把握までで、そこから先は診察の領域になります。
下痢が続くだけでは大腸がんかどうか判断できない
下痢が続くと大腸がんを思い浮かべる方は少なくありません。国立がん研究センターの記述を確かめると、大腸がんは早期の段階では自覚症状がほとんどありません。そのうえで、進行すると便に血が混じるなどの症状があらわれ、腸が狭くなることによる便秘や下痢、便が細くなる、便が残る感じがする、おなかが張るなどの症状があらわれることもありますと書かれています。
この2つを合わせると、症状の有無からは、どちらの向きにも結論が出ないことが分かります。下痢が続いているからがんだ、とは言えません。同時に、症状がないからがんではない、とも言えません。早期には症状がほとんどないと書かれている以上、症状の有無を安全確認の材料にはできないためです。
| 手がかりにしようとするもの | 一次情報から言えること |
|---|---|
| 下痢が続いている | 下痢が続いているからがんだ、とは言えない |
| 症状がない | 早期は自覚症状がほとんどないため、症状がないからがんではない、とも言えない |
血便についても、同じ資料はこれらの症状は痔などの良性の病気でも起こりますとしたうえで、自己判断せず、症状に気が付いたら早めに身近な医療機関を受診しましょうと案内しています。良性の病気でも起こるという記述と、自己判断しないという案内は、同じ段落に並んでいます。片方だけを取り出すと、意味が変わります。
参考:国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)」
自分では判別できないからこそ、切り分けは検査の側で行われます。症状だけで確率を見積もるのではなく、診察と検査で一つずつ確かめていく、という順序になります。
下痢が続くときに自分でできる対処法

ここまでは医療機関で行われることを見てきました。この章で扱うのは、そのあいだに自分でできることです。ただし、自分でできることは受診の代わりにはなりません。どこまでが確かめられていて、どこからが確かめられていないのかを分けて見ていきます。
下痢が続くときの食事や飲み物で摂りすぎに注意したいもの
便通異常症診療ガイドラインは、慢性下痢症(狭義)の病態に食事内容は関与するとしています。具体名として挙げられているのは次のものです。
- 果糖が含まれるジュース
- カフェイン入り飲料
- キシリトールが含まれるガムや飴
いずれも「過剰摂取」が条件として書かれています。コーヒーを飲むこと自体が下痢の原因になる、という書き方ではありません。この条件を外すと、原文にない主張になります。
飲み物に偏って見えますが、キシリトールが含まれるガムや飴のように食品側の例も挙げられています。食事の内容そのものが関与するとされている以上、日常的に多く摂っているものがあれば、それも診察で伝える材料になります。何をどれだけ減らせばどうなるか、という数値の目安は示されていません。短期間で状態が変わると断定できる記述もありません。
下痢が続くときの生活習慣でわかっていること
食事以外についてはどうか。同じガイドラインは、食事以外の生活習慣の関与は不明としています。「食事内容は関与する」という前の項目の記述だけを読むと、生活を整えれば解決するように見えるかもしれません。ただ、食事以外について原文が述べているのは、関与が分かっていないというところまでです。喫煙や飲酒については、有意な関連を認めなかったとの報告が引かれています。
ガイドラインはまず、慢性下痢症(狭義)に対する生活習慣改善の有効性を検討した報告はないと明記しています。そのうえで、エビデンスは少ないものの、実施するにあたって不利益がないことから、根拠が不確かなものであることを理解したうえで生活習慣の改善を行うことを提案するとしています。「効く」ではなく「不利益がないから提案する」という位置づけです。
低FODMAP食のような特定の食事法についても、報告があるのは下痢型過敏性腸症候群の患者を対象としたものです。この記事の読者全体に当てはめられる根拠ではないため、特定の食事法をすすめる形にはしていません。

下痢が続く原因によって市販の下痢止めの扱いが変わる
市販の下痢止めを自己判断で使ってよいかどうかについて、直接答えている一次情報は見当たりません。学会のガイドラインが扱っているのは、いずれも医療機関で治療方針を決める場面についてです。そのため、一律に「飲んでよい」とも「飲んではいけない」とも判断できません。次の表に挙げるのも、読者が自分で当てはめるための一覧ではなく、場面ごとに書かれていることが変わるという事実を示したものです。
| 学会が述べている場面 | 述べられている内容 |
|---|---|
| 慢性下痢症(狭義)に対する薬物療法 | 研究報告が少数にとどまるため、ガイドラインは推奨度をつけていない |
| 成人の細菌性腸炎(サルモネラ腸炎)が疑われる場面 | 止痢薬は菌の排出を長引かせたり麻痺性のイレウスを起こす可能性もあるため、できる限り投与は避けるべきとされている |
| 腸管出血性大腸菌による腸炎 | 止痢薬が溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症リスクを高めるとの報告があるため、できる限り使用しないとされている |
この表の2段目と3段目は、細菌性腸炎が疑われる場面での学会の治療方針です。下痢のときは下痢止めを避けるべきだ、という一般論ではありません。一方で1段目は慢性下痢症(狭義)についての記述で、同じ「下痢止め」という言葉でも、どの場面の話かによって書かれていることが正反対に近くなります。
そして、どの場面に当たるのかを自分で判定することはできません。原因の分類を自分で決められないのと同じ理由です。扱いが変わるということは、判断する主体が医師や薬剤師の側にあるということでもあります。市販の薬について迷ったときは、その迷いごと薬剤師や医師に相談するのが、資料の範囲で言えるところになります。
参考:日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015―腸管感染症―」
処方された下痢止めを使っても下痢が続くときは医師や薬剤師へ
前の項目が市販の薬の話だったのに対し、ここで扱うのは医師から指示されて使っている下痢止めの話です。厚生労働省のマニュアルは、指示された下痢止めを服用しても症状が改善しない場合には、そのままにせず医師または薬剤師に連絡するようすすめています。
改善しなかったという事実そのものが、次の判断に使われる情報になります。指示されたとおりに使っても症状が続く場合は、その経過をそのまま医師や薬剤師に伝えてください。何らかの薬を服用していて症状が継続する場合についても、同じマニュアルが連絡をすすめています。
この章で扱ってきたことは、いずれも受診と並べて行うもので、受診の代わりに置けるものではありません。食事の内容も、生活習慣も、薬の扱いも、確かめられている範囲がそれぞれ違います。症状が続いている場合は、医師または薬剤師に相談するというのが、この章の着地点になります。
下痢が続く大人によくある質問

最後に、下痢が続く状態について寄せられやすい質問を9つまとめました。
下痢が続くのは何日くらいから長いといえますか?
医学的な区分としては4週間以上が線になります。日本消化管学会の便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症は、慢性下痢症を4週間以上持続または反復する下痢のために、日常生活にさまざまな支障をきたした病態と定義しています。持続だけでなく反復も含まれ、生活への支障という要件も並んでいます。この4週間は、急性の下痢の原因として多い腸管感染症が通常1週間、長くても4週間で改善することから引かれた線です。ただしこれは病態を区分するための数字であり、この日数を過ぎたら受診する、という目安として示されたものではありません。
下痢が続く期間だけで病院へ行くかどうかを決められますか?
決められません。期間の数字は病態の区分のために引かれたもので、受診の目安として示された一次情報は見当たらないためです。同じガイドラインが受診や検査につながる材料として挙げているのは、予期せぬ体重減少や血便などの警告症状のほうですが、その一覧にも「その有用性は明らかでない」という限定が付いています。つまり、期間でも項目の数でも、様子を見てよい範囲を自分で確定することはできません。判断に迷っているなら、その時点で相談してよいという形になります。
下痢は内科で診てもらえますか?
診てもらえます。池袋かめさん内科の内科診療でも、対応する症状として腹痛・下痢・便秘・吐き気が挙げられています。当院の内科診療は予約なしでもご受診いただけます。ただし、発熱のある方や解熱剤を服用した方、新型コロナウイルスの自己検査で陽性となった方は、院内感染対策のため、事前に発熱外来をご予約のうえご来院ください。なお、便通異常症診療ガイドラインは対象とする主な利用者を一般臨床医としており、日常の診療の中で扱われる領域として想定されています。

お腹がギュルギュルするときや下痢になりやすいときは何科ですか?
症状の組み合わせによって窓口が変わるわけではありません。腹部の症状から受診先が一意に決まることを示した一次情報はなく、国立がん研究センターも、症状に気づいたときは自己判断せず身近な医療機関を受診するよう案内しています。組み合わせを自分で分類してから受診先を決める必要はなく、まず内科で相談し、そこから必要に応じて検査へつなぐという順序になります。池袋かめさん内科では、内科診療と内視鏡検査を同じ院内で受けられる体制を整えています。
軟便が続いているときはどうしたらよいですか?
軟便は、下痢の定義に含まれる便の形です。便通異常症診療ガイドラインは、便の形がブリストル便形状スケールのタイプ6の軟便またはタイプ7の水様便であることを診断基準の1つとしています。ただし下痢と呼ぶには排便回数が増えていることも要件になり、排便回数の増加のみでは下痢とは表現しないとも書かれています。形と回数のどちらか一方だけが当てはまる場合もありますが、続いていること自体は診察で伝える材料になります。日数だけで受診の可否を決める必要はありません。
下痢を自分の判断で止めてよいですか?
市販の下痢止めを自分の判断で使ってよいかどうかについて述べた一次情報は見当たりません。学会のガイドラインが扱っているのは医療機関で治療方針を決める場面で、慢性下痢症(狭義)に対する薬物療法には推奨度がつけられていない一方、細菌性腸炎が疑われる場面では止痢薬をできる限り避けるべきとされています。同じ言葉でも、どの場面の話かによって内容が変わります。どの場面に当たるかを自分で判定することはできないため、自己判断ではなく、医師や薬剤師に相談するのが確かめられている範囲での答えになります。

下痢のときにしてはいけないことはありますか?
一律の禁止事項として示された一覧はありません。学会の記述は、いずれも医療機関が治療方針を決める場面について書かれたもので、場面ごとに内容が分かれています。たとえば成人の細菌性腸炎が疑われる場面については止痢薬をできる限り避けるべきとされ、腸管出血性大腸菌による腸炎についても止痢薬をできる限り使用しないとされています。どちらも読者が自分の状態に当てはめて使う禁止リストではありません。自分でできる範囲としては、水分がとれているかを確かめること、飲んでいる薬を医師に伝えること、自己判断で薬をやめたり足したりしないことが挙げられます。
下痢が続くのに腹痛がないときも受診を考えてよいですか?
考えて差し支えありません。慢性下痢症の診断基準は便の形と期間を軸にしており、腹痛の有無は問われていません。痛みがないことは、相談を控える理由にはならないということです。受診を考える材料として一次情報が挙げているのは、予期せぬ体重減少や血便などの症状のほうですが、その一覧に当てはまらなくても、器質的疾患を除外できるわけではないと同じガイドラインが述べています。当てはまるものがない場合も、続いていること自体を伝える価値があります。判断に迷った時点で相談していただけます。

子どもの下痢が続くときは何科を受診すればよいですか?
小児科へご相談ください。この記事で扱ってきた基準や推奨は、いずれも成人を対象としたものです。感染症治療ガイドラインでも成人と小児で章が分かれており、成人についての記述をそのまま子どもに当てはめることはできません。止痢薬の扱いのように、成人と小児で書かれている内容が異なる項目もあります。年齢に応じた判断が必要になるため、子どもの下痢が続く場合は小児科で相談するのが適切です。
「元気なのに下痢が続く大人はどこまで様子を見てよいか」という問いに対して、一次情報から引ける答えは期間では決まらないというものでした。学会が示す4週間は慢性下痢症という病態を区分する線であり、受診の目安として示されたものではありません。読者が数えている1週間という日数も、急性の下痢の原因として多い腸管感染症が改善するまでの期間として書かれているもので、様子を見てよい範囲を示した数字ではありません。
では何で考えるのか。一次情報が挙げているのは症状のほうですが、その一覧にも「その有用性は明らかでない」という限定が付いています。当てはまっても器質的疾患が見つかるとは限らず、当てはまらなくても除外できるわけではない、と同じ資料が書いています。つまり、7項目は当てはまっても当てはまらなくても、それだけでは結論になりません。
原因についても、8つの分類は示されていますが並び順は多い順ではなく、順位を付けられるだけの報告がそもそもありません。市販の下痢止めの扱いも、場面によって書かれていることが変わります。自分で詰めきれない部分が残るのは、情報の集め方の問題ではなく、確かめられている範囲がそこまでだからです。
「どこまで様子を見てよいか」への答えは、日数では決まらない。判断の材料は症状のほうにある、というものになります。ただしその症状の一覧にも限界が明記されており、当てはまるかどうかで白黒がつくものではありません。
期間の章で扱った4週間は病態の区分、症状の章で扱った7項目は診察で伝える材料、検査の章で扱った大腸カメラは器質的疾患を切り分けるためのもの。役割がそれぞれ違うため、どれか1つで答えが出る形にはなっていません。だからこそ、迷っている時点で相談していただけます。
池袋かめさん内科の内科診療では、下痢を含む腹部の症状のご相談を受け付けています。診察のうえで検査が必要と判断された場合も、胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡検査まで同じ院内で対応しており、検査から診断・治療まで一貫して行えるのが当院の特長です。より専門的な治療が必要な場合は、国立国際医療センター・帝京大学病院(がん拠点病院)などへ速やかにご紹介いたします。
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